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デジタルトランスフォーメーション (DX) を牽引するデータ革命が起きています。ほとんどの企業は、データをデジタル化しプロセスを自動化することで、バックオフィス部門に多くのメリットを提供することができます。しかし、デジタルエコノミーの水準を高めているのは、データを最大限に活用し、魅力的なカスタマーエクスペリエンスを提供している企業です。このような企業は、ローデータの持つ価値を理解し、その価値を高め、自社のデジタルタッチポイント全体に広める方法を理解しています。すなわち、データを AI や API と結び付けることで、データの価値を有効活用しているのです。しかし、デジタルで先行することを目指す企業にとって、デジタル戦略としてデータ管理、AI および API 管理の採用を掲げるだけでは不十分でしょう。

「DX」という言葉は、テクノロジーに関するすべてのトレンドと、ビジネスにおけるあらゆる革新的アプローチを総称するものとなりました。デジタル戦略をどう定義するかという難題に対峙するとき、組織によっては IT 部門のリーダーが独断で、マイクロサービスアーキテクチャによるクラウドネイティブ化を目指して、アジャイル方法論と DevOps カルチャーを確立しようとするかもしれません。こうしたアプローチでは、サービスからのアウトプットを向上させることはできても、ビジネス戦略の出発点としては不十分です。DX 戦略では、IT 部門とビジネス部門のリーダーが協力することは必須です。しかし、これらのリーダーたちが協働で DX 戦略の立案に取り組んだとしても、データや AI、API がもたらすイノベーションの (膨大な) 可能性に惑わされるかもしれません。つまり、独断的思考に陥り、ビジネスの成果を見失ってしまう可能性があるのです。AI と API は、機械学習対応の API セキュリティソリューションから、RPA を実装するための APIAPI を構築する AI アルゴリズムまでさまざまな形で交わっています。戦略を立てるとき、最初にテクノロジーの動向にフォーカスすると、道を誤ってしまうことでしょう。

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では、どこから始めれば良いのでしょうか?数年間、API を活用した企業のデジタル戦略に携わってきた私たちなら、その回答を理解しています。最近、 API ビジネス戦略を視座とするビジネスモデルについて話す機会も多くなりました。その理由は、「安定状態」と「拡張性」が両立されているビジネスモデルこそが、ビジネス戦略の初期段階における最も重要な道標になると確信されているからです。目指すべきビジネスモデルが明確になれば、それを拡大するために必要なターゲット顧客やその他のステークホルダーを絞り込むことが可能になり、サポートに必要な機能を明確にすることができます。目標とするビジネスモデルを具体的に描くことで、ビジネス戦略を効果的にしてくれる中心軸が決まります。

新しい価値

これまでは API の観点からビジネスモデルを見てきました。ビジネスの現場では、API を含むほとんどのビジネスモデルは、より幅広いデジタルエコシステムの一部であることがわかっています。最近のブログ記事にて、デジタルエコシステムをバリューネットワークとして捉える方法について書きました。バリューネットワークとは、ビジネスイノベーションの専門家であるクレイトン・クリステンセン教授が定義したコンセプトです。クリステンセン教授はビジネスモデルを検討する際、ビジネスモデルに含まれるバリューネットワークの観点から考える必要があると提唱しています。ビジネスモデルにおける価値という考え方を力説している人物がもう一人います。ビジネス戦略の専門家のアレックス・オスターワルダー氏です。オスターワルダー氏は、「ビジネスモデルキャンバス」の生みの親として有名でしょう。彼の言葉を借りれば、「ビジネスモデルとは、組織が価値を創造、提供、獲得する方法」です。ビジネスモデルに価値の提供と獲得が含まれていることは、先述のブログ記事で定義している「ビジネスモデルに対するバリューエクスチェンジマッピングのアプローチ」にも影響を与えました。ここで、創造・提供・獲得という3つの価値行動が、高機能なデジタル組織の中でどのように連携しているのかを見てみましょう。具体的には、データというユニークな価値を創造・提供・獲得する際に、AI と API が果たす役割について検討したいと思います。

バリューネットワークで交換される価値には、さまざまなタイプがあります。金銭、製品、サービスといった有形資産だけでなく、時間の節約、情報の伝達時間、リスクの軽減といった無形資産もあります。データは特殊な性質であるため、どちらの価値カテゴリーにも分類しづらいというのが事実です。データは、製品やサービスの場合もあれば、信頼といった無形資産を獲得する手段である場合もあります。さらに、バリューエクスチェンジの相互作用からの派生ということもあります。いずれにせよデータとは、デジタルエコノミーにおいて最も新しく最も手付かずの資産であることに変わりはありません。だからこそ、データの価値を最大化できる組織が最も成功を収めているのです。では、データの価値を最大化するにはどうすればよいでしょうか?

価値としてのデータ (Data-as-value):創造、提供、獲得

オスターワルダー氏のビジネスモデルの定義をベースに、Data-as-value (価値としてのデータ) について説明します。さらに、AI と API がこれにどのように関わっているかについても説明したいと思います。ビジネスモデルの定義の最後に挙げられている「価値の獲得」とは一般的な経済用語です。通常、ビジネスモデルにおける収益を上げる活動のことを指します。しかしデジタルの先進企業と同様に、データを貨幣そのものとして捉えるならば、価値の獲得とはすなわちデータの獲得が「Data-as-value サイクル」の最初のステップとなります。データは、顧客とのやり取り、イベントストリーム、非構造化メディア、バッチファイル、その他あらゆるデータソースを通じて獲得できます。ビジネスモデルを最適化するためのカギは、できるだけ安価にデータを獲得することです。一般に最も安価なデータは Atom 形式で取得されるローデータ。または、データ提供者自身でさえ、ほとんど価値がないと見なしているデータでしょう。たとえば、Instagram のユーザーは何のためらいもなくフォロワーと写真をシェアしておきながら、Facebook に画像データを提供しているとは考えていないかもしれません。成熟したデジタル組織ではデータへの到達率が非常に高いため、インバウンド処理は最小限に抑えられています。API はユーザーとのやり取りにおいてデータ取得のポイントになり得ますが、一般的に API 以外のデータソースも数多く存在します。Data-as-value を実現できると、データを活用した価値の創造が始まります。

一昔前のデータ処理では、データを構造化かつ正規化してデータウェアハウスに格納する作業が多く行われていました。しかしビッグデータを扱う現代では、構造化されたデータの規模は大きく、正規化は(不可能ではないにしても)非現実的であり、取得するデータの大半は非構造化データになっています。ただ幸いなこととに、分析ツールの革新によって非構造化データであっても、すべてのデータを処理できるようになりました。これを可能にしているのは AI の分野、特に機械学習 (ML: Machine Learning) です。実際、ML はモデルを学習し、その精度を高めるために、大量のデータを必要としています。こうしたモデル学習には、ストレージと計算の観点から膨大なリソースが必要です。ML では、すべての入力データを大規模なデータセットに集約させ (データレイクやクラウドストレージに保存)、強力なコンピューティング (CPU クラスターや GPU ユニット) で効率的に処理します。一度、認識したモデルは、より分散化された方法でデプロイできます。これらの分散型モデルは、時系列ベースの予測から画像認識、顧客ターゲティング、レコメンデーションまで、複数の価値を生み出す方法に応用することが可能です。データの相関性とコンテキストが高まれば高まるほど、その潜在的価値は向上します。しかしその潜在的な価値は、消費者に供給できて初めて経済化され、発揮されるのです。

デジタルエコノミーで差別化を図ろうとする際、企業はカスタマーエクスペリエンスを通してそれを実現しています。つまり、可能な限りのあらゆるデジタルチャネルを通じて顧客にサービスを提供することで、顧客が抱えている問題を解決し、そのニーズを満たすシームレスなエクスペリエンスを提供することに他なりません。このようなエクスペリエンスを可能にするインサイトは、AI によって生成されたデータから作られています。しかし、API を介してこれらのインサイトを提供しない限り、無数のチャネルの顧客に情報を届けることは不可能です。API は大量のデータを取り込むための最も効率的なメカニズムとは言えません。しかし、データをビジネス能力として明確にし、システム・オブ・エンゲージメントを通じて顧客に届ける事実上の手段となっています。Amazon、Netflix、Uber といった、デジタルカスタマーエクスペリエンスによる創造的破壊を実現している企業の多くが、膨大な API を外部に提供しつつ、自らも利用していることは偶然ではありません。ビジネスモデルの観点から API は、そうした企業が価値を提供する際のパイプの役目を果たしています。

図1:データ、AI、API が連携する価値の循環

データ、AI、API の 3 原則

データと AI、API を組み合わせたこのデジタルの 3 原則は、Amazon、Facebook、Google などのデジタルエンタープライズにとって紛れもない強みとなっています。既存企業も同様にその恩恵を享受していることは好ましい傾向でしょう。コネクテッドカーの生産で世界をリードする BMW の例を見てみましょう。世界経済フォーラムは、1 台のコネクテッドカーは 1 日あたり 4 テラバイトのデータを生成すると推定しています。BMW はこのデータを取得し分析することで、燃費とメンテナンスに関する実用的なインサイトを獲得しています。この情報はパッケージ化され、API を通じてドライバーの UI を強化。さらに、ドライバーの同意に基づいて、自動車修理工場や保険会社などのサードパーティとインテグレーションされています。データはあらゆる業界に大変革をもたらしており、このデジタル 3 原則はすべての業界に応用できます。

次に、このアプローチを自社のデジタル戦略に活用するための 3 つのヒントを紹介したいと思います。

データ、AI、API を総合して戦略を検討する

同僚である Andrew Dent は、ブログ記事の中で、「データ戦略」と「API 戦略」を混同しないようにと警鐘を鳴らしています。もう一人の同僚である Hugo van den Berg は、AI の可能性と API が役立つ分野について記述しています。どちらの記事もデータ、AI、API のそれぞれの戦略で、これらをうまく組み合わせる必要があることを強調しています。どのようなデータを収集すべきかを理解するためには、そのデータの利用方法を理解していなければなりません。収集したデータの利用方法を把握するには、それが自社の顧客にもたらす利益を理解することです。これらのどの戦略も、別個に検討し、定義することがないようにしてください。そして前述したように、ビジネスの必要性に基づいていることを確認してください。

想定するビジネスモデルに基づいた戦略を策定する

自社が想定しているビジネスモデルのために戦略を立てることで、データ、AI、API の各戦略を総合的に取り組むことが必須となります。さらに重要なことは、意図したビジネス成果を戦略の根拠とし、ビジネス部門と IT 部門のリーダーが協力して戦略を策定するための共通土台を作ることです。「デジタルエコシステムで価値が交換される方法」および「組織内で価値を生み出す方法」を示すことによって、ビジネスモデルをマッピングすることは目標に到達するアプローチを決定するために役立ちます。さらに、目標を達成した後に、革新を続け成長していくためのインサイトも提示してくれるでしょう。

「Data-as-value」の機会をつかむ

前述したように、データはデジタルエコノミーにおける最大の未開拓資源です。幸い、組織にはおそらく多くのデータがあるはずです。こうしたデータに手っ取り早くインタフェースを付けて、買ってくれる消費者が現れるのを待ちたくなるかもしれません。しかし現実には、データを交換可能な価値に磨き上げるためには、繰り返しの作業が必要となります。データの中身は何か?それをどのような方法で文脈化し相関させれば、直接的または間接的にカスタマーエクスペリエンスを向上させることができるのか?を、考えてみてください。しかし、それで終わりではありません。顧客の立場になって、顧客が抱える課題やニーズ全体について検討しましょう。デザイン思考を適用してラピッドプロトタイピングに取り組んでみてください。こうしたアプローチにより、手元にあるデータをさらに統合する方法や機会、エクスペリエンスに織り込める新しいデータ取得の機会を特定できるようになります。とりわけ、顧客情報の統合は多大な価値をもたらしてくれます。David Rogers の著書『The Digital Transformation Playbook (DXのためのプレーブック)』をご覧になることをお勧めします。同書にはデータを資産に変換する方法について書かれた章があります。

ビジネスのデジタル化時代が到来した今日、無数のデジタルソリューションによって「注意の散漫」も引き起こされています。これらを乗り切る最良の方法とは、自社の進むべき道を照らし導いてくれる、明確なビジネスモデルを策定することです。膨大な量のデータ、難解な ML アルゴリズム、大量の API への対応は、あなたの注意をデジタル戦略から逸らす原因にも、自社のデジタルエコシステムを創造的に破壊するためのツールにもなります。これらの手法を活用して、自社が目標としているビジネスモデルを実現させてください。さらには、自社のビジネスの本質を明確にする価値を、創造、提供、獲得してください。それにより、自社のイノベーションの推進力をさらに高められます。

この記事の執筆に協力していただいた Radu Miclausおよび Gibfor Bassett 氏に感謝します。