「インテグレーションに無関心」という問題
私たちは日頃から IT リーダーの方々と接する機会があります。Zoom ミーティングでは、デジタルトレンドから変革の目標、その裏で起きていることまで、あらゆることを話し合います。リーダーたちと接するこのような場面で、よく耳にする共通のメッセージがあります。
それは「ビジネスの結果さえ出れば、インテグレーション方法や技術は気にしない」というものです。
このような言い方は、良い意味にも悪い意味にも取れるため、少し困惑するところです。
良い意味にとれば、ビジネスリーダーは「どのようなインテグレーション技術を使用するか」や「アプリケーションやデータ、プロセスをどのようにオーケストレートするか」よりも、その影響やビジネス成果を重視すべきだということです。ビジネスリーダーにとって、ソーセージの作り方は重要ではなく、美味しいかどうかが重要なのです。
しかし同時に悪い面もあります。それはビジネスリーダーがインテグレーション技術に無関心なため、深刻な資金不足に陥ることが多々あるということです。Forrester によれば、世界中の組織がインテグレーションにかける費用は年間 1 兆ドル近くに達するそうです。膨大な費用です。つまり、インテグレーションに資金が不足していると言うよりも、インテグレーション戦略の資金が不足しているのです。
IT 部門と事業部門の両方が一体となってインテグレーション戦略を協働で策定しなければ、好ましくない事態に陥ります。つまり、その場しのぎでインテグレーションが決められてしまうことで、長期的な価値の創出は不可能となり、短期的なニーズ解決にのみ終始することになります。インテグレーション技術の複雑さについてビジネスリーダーに講釈するつもりはありません。それは本来 IT 部門の仕事です。ただしビジネスリーダーは、自社に導入するインテグレーション技術が他の技術より劣っている場合、その代償を理解する必要があります。こうした決定は往々にして表には現れないものの、企業の損益に多大な影響を及ぼします。
デジタル化を迫られたときに、とるべき行動とは?
現代の企業がデジタル変革という大きな重圧にさらされていることは、もはや周知の事実です。McKinsey によると、顧客とのやり取りの 65% はデジタル化されています。しかし、組織が「デジタル化」を推進しようとしているにもかかわらず、大部分はデータ、アプリケーション、ビジネスプロセスを迅速に統合できずに失敗しています。たとえば、MuleSoft の接続性ベンチマークレポートによると、データのサイロ化、従来のテクノロジー、ポイント・ツー・ポイントのアーキテクチャのせいで、エンドユーザーエクスペリエンスを完全に統合できている組織はわずか 18% に過ぎません。
DX戦略の成功は、それを支えるインテグレーション戦略があってこそ実現できるのです。DXで成功を収めている組織は、「デジタルマインドセット」を採用しているという共通点があります。Twilio の CEO 兼創業者である Jeff Lawson 氏は、ハーバード・ビジネス・レビューの寄稿の中で、成功している組織はソフトウェアを競争力と捉え、その価値を高めるために時間、リソース、資本を投入して磨きをかけていると述べています。「デジタルエコノミーでは、最高のソフトウェアを作った者が勝者となる」とも Lawson 氏は記述しています。
インテグレーションなくしてDXなし
ビジネスリーダーや IT リーダーにとって、デジタルマインドセットの採用はインテグレーションを戦略的視点として取り入れることでもあります。このような変化において基本となるのが、モダンインテグレーションの構成要素であるAPI (Application Programming Interface) を積極的に採用することです。
図 1:モダンインテグレーションを構成する 3 つの主要素
これら 3 つの要素を満たせられれば、DXの成功は約束されたようなものです。
モダンインテグレーションと価値の源泉
モダンインテグレーション、特に API で利益を得るのに、テクノロジー企業である必要はありません。また、API で直接収益化する必要もありません。実際に、開発される API のほとんどは組織内部で使用されるものばかりです。したがって、API を直接収益化するか否かにかかわらず、価値を生み出す機会を把握し、適切な投資を行えるようにすることが重要です。
しかし、組織ではインテグレーションに価値を見出すことが難しいケースも少なくありません。MuleSoft では、インテグレーション価値を算出するためのフレームワークを用意しています。このフレームークは 2 つのパートに分かれます。1 つはモダンインテグレーションによって生み出されるIT価値(つまり、プラットフォームの利点)。もう 1 つはこれによって実現されるビジネス価値のことです。
図 2:IT とビジネスの両方で価値を生み出すモダンインテグレーション
プラットフォームの利点とそれに関連する IT の価値は重要です。一方、「金額の大小」という視点では、モダンインテグレーションによって実現するビジネス価値と比較すると、微々たるものであることが少なくありません。ブログ記事をシリーズ化させ、図 2 に描いたフレームワークに焦点を当て、そこに定義されている 6 つのビジネス価値の源泉について詳しく検証していく予定です。次回は、市場投入までの時間を短縮し、インテグレーションを短期間で実現することが、ビジネス戦略に大きな影響を与えることについて考えてみたいと思います。