ボットは身近な存在になりつつあります。ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) は、運用コストを削減し、効率を高め、企業の将来の競争力を強化します。しかし、ビジネスリーダーや CIO にとって RPA の導入は魅力的な言葉でも、従業員にはまったく違う印象を与えるかもしれません。大きな不安や抵抗を引き起こす可能性さえあります。本記事では、コミュニケーションが RPA の導入に伴う混乱を抑え、ビジネスの変革に重要な役割を果たす理由について説明します。
変革の加速:アフターコロナ時代における RPA の必要性
もはや、デジタルファーストの企業にとってRPA は「新技術」ではありません。しかし、RPA の話題はここ数年で増え続けていることも事実です。新型コロナウイルスにより、特にリモートワークへの移行や病欠に関する新たな課題が生まれました。このような影響を受けて、デジタルトランスフォーメーションのスピードと拡張性が圧倒的に重要になりました。自動化がそのための主な促進力として確立されたのです。
新型コロナへの取り組みとして、80% の企業が業務プロセスのデジタル化の加速を計画。さらに50% がタスクの自動化による加速の実現を目指しています。コストの削減、プロセスの高速化、エラーの低減など、RPA には優れたメリットがあります。自動化を実現した企業は回復力を持ち、将来を見据えた企業といえます。そのため、経済不況にもかかわらず、2020 年から 2021 年にかけて、企業の CEO や CIO は RPA ソフトウェアに多額の投資を行ってきました。
ボットに仕事を奪われる? 自動化がもたらす不安の歴史
プロセスの自動化はビジネスにメリットとなります。しかし、ボットの進出は労働者の役割にどういった影響を与えるのでしょうか?RPA の導入に伴い、労働者は失業の不安を持つようになります。従業員の 60% 以上が自動化によって仕事がなくなる危機感を抱き、39% が今後 5 年以内に自分の仕事がテクノロジーに取って代わられると考えています。
近代産業の進化の節目では、自動化に対する不安が再燃します。18 世紀の「蒸気式織り機」を思い浮かべてみてください。19 世紀の「組み立てライン」による生産と電化について考えてください。20 世紀の「産業用ロボット」と「コンピュータ化」についてはどうでしょうか?
破壊的なイノベーションが起こるたびに、『技術的失業』の恐怖が沸き起こりました。そして、この恐怖が労働者階級に大きな抵抗を引き起こしてきたのです。2016 年の世界経済フォーラムで、Klaus Schwab が第四次産業革命を発表したときにも同じような影響がありました。ソフトウェアロボット、AI、機械学習を組み込んだ「スマートファクトリー」という Schwab の構想は、何度目かの深刻な不安を引き起こしました。さらに、ロボットに対する私たちのネガティブなイメージは、映画や小説によって助長されています。
「ロボットは理解不能な知的機械とみなされ、まず家庭で、次に職場で、暗く理想に反する近未来の到来を予告している」- Deloitte Insights: Automation with Intelligence、2020年
そのため、RPA に対する抵抗があることは仕方がないことだと考えるべきでしょう。
変革の成功は従業員ファーストの姿勢
変革への抵抗は、RPA の導入と拡張を阻む大きな障壁となります。つまり、単に RPA ソフトウェアを購入し、インストールするだけでは、企業の自動化への道が開かれることはありません。「変革には、新しいテクノロジーだけでなく、人的資本も重要である」と Deloitte 社の調査で指摘されています。自動化の価値を最大限に引き出すためには、従業員を第一に考えなければなりません。たとえば、変革プロジェクトの最初から従業員を巻き込むなど、包括的なアプローチが必要なのです。
どうすれば本当に従業員と繋がることができるのでしょうか?話し合うことです。「懐疑派を味方につける」ためには、コミュニケーションが鍵となります。これは RPA の導入について、全社員に一斉メールを送信するようなものでは決してありません。独裁的で一方的なアプローチは、(RPA の導入を) 成功させるためのコミュニケーションではありません。さまざまなチャネルを使用して、それぞれの利害関係者と継続的に対話しなければなりません。
RPA の必要性を伝えるときに守るべき 7 つのルール
それでは、会社全体に RPA を導入し、持続的に展開することを計画している企業に役立つ、従業員を中心としたコミュニケーションに関する重要なヒントを紹介します。
1. コミュニケーションをとる
重要な問題について口を閉ざすことには注意が必要です。情報を隠していると思われるかもしれません。従業員には秘密にして、経営幹部レベルで密かに自動化の計画を進めるようなことは避けてください。従業員は、沈黙を悪い知らせであると解釈します。信頼できる情報が不足すると、否定的または誤った推測が生じ、変化に対する摩擦が大きくなる可能性があります。
2. 正直である
従業員の懸念を真摯に受け止め、率直かつ直接的に対処するようにします。自動化によって、職場が大きく変化することを正直に伝えてください。手作業または基本的な認知スキルを必要とする仕事は、2030 年までに約 15% 減少すると言われています。RPA を導入しても大きな変化は起こらないフリをすると、従業員の信頼を失い、今後のコミュニケーションに支障をきたす恐れがあります。
Graig Nelson は、「RPA を導入する前に、新しい組織体制と人々に与える影響を明確に説明できない RPA 提唱者は、大きな抵抗を受けるだろう」と述べています。
従業員の不安を取り除くように努めてください。もちろん、肉体労働の需要は自動化によって減少し続けています。しかし、肉体労働は今後も労働市場において最も需要が高い分野であることに変わりはありません。業種によっては、自動化が不可能な場合もあります (例:医療関係、教育分野など)。
どの業界においても自動化により、単純なスキルの作業は劇的に減少するでしょう。「基本的なデータ入力や単純処理は、自動化の影響を特に受けると考えられます。データ入力作業は、機械による処理がますます増えていくことは確実です」
3. 従業員のスキルを重視する
破壊的な危機には、概要を説明し、重要性を強調する大きなチャンスも秘められています。単純な管理業務でさえ、自動化されることが増えています。同時に、より高度な認知スキルを必要とする業務遂行能力への需要が高まっています。これは、人だけができるスキルなのです。
たとえば、複雑な問題に対して創造的かつ批判的に考えることや、熟考した上で意思決定を下すこと、既成概念にとらわれず新しい考え方を模索すること、イノベーションを生み出こと、などです。端的に言うと、自動化を導入した企業では、人々が単調な業務に退屈しない職場環境が育まれるのです。自分の能力を最大限に発揮し、より充実したワークライフを送ることができるようになるでしょう。
4. 伝え方に注意する
プロセスやコストの効率化といった RPA の導入によるビジネス上のメリットばかりを言及すると、従業員を不安にさせる可能性があります。自動化のビジョンが、面白味のない非人間的なデジタルワークフォースに征服されてしまいます。
人的要素を排除することは、自動化のポイントではありません。理想に反する未来を想起させるような形で RPA を伝えないようにしてください。RPA ボットを、人に代わって仕事をする、魂のない機械として表現すべきではありません。感情を示さない装置という、「ロボット」の一般的な概念は排除しましょう。日常業務を簡素化し、従業員の能力を広げる有用な協働ボットとして、名前を付けるなどしてポジティブかつ個人的なスタイルで話してください。RPA は脅威的なものではなく、不安に感じる必要はないのです。
5. 例を紹介する
『理論』や『ロジック』は抽象的で漠然としています。従業員に RPA を深く理解して受け入れてもらいたいという気持ちを表すためには、日常業務に関する実用的な例を示しましょう。RPA ボットはたくさんの機能を持っています。人事ファイルの更新、請求書のチェック、パスワードの管理などにも利用できます。顧客や患者からのリクエスト処理、検針の記録、患者データの文書化なども RPA ボットで処理できます。
説得力のあるビジネス事例を見つけましょう。実際の業務で頻繁に行っている退屈な作業を例として用いてください。その作業を自動化した場合のワークフローをデモとして紹介します。そうすることで、従業員は RPA から得られるメリットを実感できます。従業員はこのテクノロジーを受け入れ、自分の職場で自動化できる業務をピックアップし始めるようになるでしょう。
6. 従業員の力を引き出す
ボットの構築は『特別』ではありません。RPA を IT 部門の『聖域』から取り出して、事業部門に直接導入してください。効果的なトレーニングにより、利用への恐怖心を軽減することで、従業員はこの新しいテクノロジーに次第に馴染むことができます。
ローコードアプローチである RPA では、一般的にプログラミングの知識は必要ありません。プレビルドのシナリオをドラッグ&ドロップするだけで、グラフィカルな RPA ワークフローを構築。自動化プロセスをモデル化できます。事業部門のデジタルに詳しい従業員に、「シチズンデベロッパー」になるためのワークショップを提供しましょう。それにより、簡単な業務プロセスを自主的に自動化できるようになります。このような成功体験が自己効力感を高め、従業員はボットにコントロールされるのではなく、ボットをコントロールできると感じられるようになるのです。
7. 学習を奨励する
自動化により、ルーチンワークは低減します。しかし、同時に空き時間ができることで、継続的な個人教育に費やすことができるようになります。この時間をビジネスに関する RPA の専門知識の習得に当てることも可能です。自動化が可能なプロセスの特定、ボットの構築、自動化のイニシアチブの保守など、幅広く対応できる知識や技術の習得ができるようになります。
または、現在のスキルを向上させ、昇進のために資格取得を目指すのも良いでしょう。他部門で新しい担当分野にチャレンジしたいと考える人もいるかもしれません。ボットは仕事を破壊するものではなく、働き方を変革するものであることを従業員に理解してもらいましょう。これは、生涯学習と将来の発展の原動力となり得ます。
退屈な作業を減らし、人の潜在能力を高める RPA
RPA はとてもシンプルなものです。企業の自動化への変革は、そこで働く人々の協力があってこそ成功します。RPA 戦略を構築するときは、従業員を常に中心に据え、コミュニケーションを最優先事項としてください。そうすることで、新しいテクノロジーとテクノロジーがもたらす機会について、従業員のやる気を引き出すことが可能になります。