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大企業から中小企業まで、あらゆる業種の企業がロボティック・プロセス・オートメーション (RPA) のメリットを得ています。退屈で面白みのないルーティン業務は、部門を問わず大量に存在しており、RPA の潜在的なニーズとその価値は明白でしょう。ローコードテクノロジーであり、インフラなどの環境に依存しない RPA は、スピーディーなデプロイにより、素早く成果をあげることができます。

このような背景から、自社に RPA プログラムを導入する場合、どのようにアプローチすべきかを理解する必要があります。導入する前には、まず分析をします。自動化させることに適したプロセスを見極めることで、RPA への投資から最大の効果を獲得することが可能になります。

ニーズの確認:部門を超えたRPA の可能性

自動化の道のりは、RPA を活用できそうな業務部門を探すことから始まります。次のような視点から自社のプロセスを見直してみてください。「RPA に向いているのは、手作業で何時間もかかる、より重要なプロセスのボトルネックとなっているタスクです」- Gartner リサーチ担当 VP、Dennis Gannon 氏

手間と時間がかかる非生産的な作業は、有能な社員にとっては退屈であり、大きなストレスを与えます。さらに、人的ミスが発生しやすく、修正業務が必要になることも少なくありません。コストがかかりすぎる上に、貴重な社員の時間が奪われるだけでなく、付加価値の高い業務の妨げになります。

RPA に適した単調業務がないか、部内をチェックしてみましょう。たとえば、総務や人事部は給与計算、勤怠管理、人事書類管理、採用や入退社に関わる社内業務などに忙殺され、リーダーシップコーチングや人材育成のために使える時間はほとんど残されていません。購買や財務部では、取引条件の比較、提案書の作成、請求書の処理、レポートの作成といった日常業務があり、戦略的な業務に時間を充てられません。IT チームは革新的なソリューションで業務を推進することが本来の役割です。しかし、実際にはパスワードの設定、ソフトウェアのインストール、パッチの適用など、アドミン業務に 1 日を費やしているのが実情ではないでしょうか。

プロセスオートメーションのニーズはいたる所にあります。だからといってRPA ソリューションをすぐに導入し、社員の負担になっている作業をボットに肩代わりさせればよいのでしょうか?このアイデアとても魅力的ですが、最適なアプローチとはいえません。

RPA は単なるツールではなく、プロセス最適化のための手段

企業主導のプロセスが、トップダウンにより戦略的・計画的に実施されないことはしばしばあります。むしろプロセスは、日常業務の中でボトムアップの形で発展し、いつの間にか無秩序に広がっていきます。RPA プロジェクトを積極的に推進し、オートメーションの恩恵を受けているはずの部門が、非効率的な多数のワークフロー (特に反復的作業) を維持し続けていることも事実です。

「つまらないプロセスをデジタル化しても、つまらないデジタルプロセスにしかならない」これはうまい言い回しで、「デジタル化」の部分を「自動化」に置き換えても同じことが言えます。RPA の構想を既存の処理環境に取り込んだだけでは、テクノロジーの可能性を最大限引き出すことはできません。

「多くの企業にとって、RPA の導入はプロセスの『現状維持』のためのものであるため、現在のプロセスを自動化しても、その改善や検証は行われません。ある程度の省力化は達成できるかもしれませんが、プロセスの成果、品質、コスト、サイクルタイムを飛躍的に改善する機会を逃してしまいます」

組織全体の中から自動化の効果が期待できるプロセスを早い段階で見つけ出してください。RPA の実装をすぐに始めたいと思ったとしても、一歩引いて何が起こるかを事前に分析してください。プロセスの一部を局所的に自動化するために、ローコードツールを社員に与えるだけでは意味がありません。慎重に検討し、RPA の導入をプロセス再構築の機会として活用しましょう。

「私たちのコンサルテーション活動を通じて、RPA のデプロイに最も成功している企業は、RPA をプロセスの再設計や継続的改善の規律と組み合わせている。(中略) RPA の『P』はプロセス改善やイノベーションを意味している。これは単なるタスクの自動化よりもはるかに価値のあるツールなのだ」

Thomas H. Davenport and David Brain『Before Automating your Company’s Processes, Find Ways to Improve them』

現状のアセスメント:プロセスの文書化

その後に続く最適化の基礎として、まず現在のプロセスを取り巻く状況を明確化します。ほとんどの組織がその過程で、一貫したドキュメントを持っていないことに気付きます。共有フォルダの中に、Word、Excel、Visio、フリーテキスト、クリックパスなど、さまざまな形式で単体のワークフローを説明する資料が散在しているかもしれません。しかし、その多くはすでに古くなっているのではないでしょうか。プロセスに関する最新の知識や情報は、社員の頭の中だけに蓄積されていることが一般的でしょう。

それらの知識を使って、もう一度、社内の状況を整理してみましょう。つまり、組織内で実際にプロセスがどのように実行されているかを洗い出すのです。社内のプロセスを以下の 3 段階に分けて文書化します。

  • コアプロセスには、価値を直接的に付加するすべての活動が含まれる:製品の製造やサービスの提供がこれに当たります。通常、これらは複数の部門にまたがって実行されます。たとえば、注文から入金までのプロセスは、顧客の問い合わせ対応や突き合わせ、入金確認まで多岐に渡っています。つまり、セールスや在庫管理、生産、出荷、会計に影響します。関係するすべての部門責任者とのワークショップを実施して、コアプロセス全体の大まかな見解の確認を取り、合意してください。
  • サブプロセスとはコアプロセスに付随するプロセス:サブプロセスとは通常、部門に関連するものです。たとえば、セールス部門における発注処理 (受注ではなく)、会計における請求書発行などです。部門責任者や社員を交えたワークショップで、個々の処理フローの合理的な流れを明確化しましょう。そして、それに関わる担当者、必要な書類や情報のやり取りを明示します。
  • タスクを詳らかにする: 個々の処理フローを細かく見ていきます (請求書発行など)。タスクレベルに焦点を当て、アンケートや社員インタビューを通じて、処理フローを完了するために、誰がどのタスクに着手しなければならないか、アナログかデジタルかも含めて記録します。個々のタスクのための所要時間や頻度も必ず記録しておいてください。ここで明確になったタスクのフローを、RPA ボットが適切に引き継ぐことになります。

ワークフローの可視化:プロセスのモデリング

コアモデルとサブプロセスを可視化します。全体像をつかむための概要で構いません。標準的なビジネスプロセスモデリング表記法 (BPMN / BPMN v2) に基づいて図示するのがよいでしょう。BPMN はプロセスをグラフィカルなフローチャートとしてモデル化。担当者や当事者、リソース、依存関係、アクティビティなどのプロセスロジックをわかりやすく可視化します。

ピザ注文の BPMN

分析と改訂:プロセスの (継続的な) 最適化

現行のプロセスを可視化することは、最適化するための余地を見つけ出し、技術、業務、組織の弱点を克服するための出発点です。プロセスの最適化とは、ビジネスの目標を達成するために、短いスループット時間と少ないコストで最大の効率を実現させることです。現行プロセスをモデル化し、次の 3 つの視点から分析します。

  • 削減:プロセス内のタスクはすべて必須か?
  • 簡略化:もっとシンプルにタスクを実行できないか?
  • 標準化:(一定以上の頻度で発生する) タスク処理は統一されているか?

「削減」「簡素化」「標準化」により、短期間でプロセスの効率を飛躍的に高め、目に見えてコスト削減が可能になります。さらにプロセスを最適化することで、収益性が高く、持続可能で、拡張性の高い RPA プロジェクトへの道が開かれます。プロセス最適化の事前準備を担当する人材がいないならば、プロセスコンサルティングを外部に依頼することも有効な手段となります。

なにを自動化するか:タスクを適切に評価する

プロセス最適化の事前準備が完了し、対象となるプロセスも確定しました。これではじめて、個々の業務が RPA による自動化に適しているか否かを検討できるようになりました。まず、考えられるユースケースを 2 つの視点から検討してください。1 つ目は、技術的あるいはプロセスの論理的な視点から、対象のタスクを自動化できるかということ。2 つ目は、ビジネスの視点から、対象のタスクを自動化する価値があるかということです。タスク自動化については、以下に示すように、評価基準がたくさんあります。

RPA の評価基準 I:自動化実現の可否

デジタルデータの入力。RPA ボットはデジタルアプリケーションの GUI で動作します。RPA で自動化できるのは、社員がパソコン上で行っているマニュアル業務だけです。プロセスの中で、紙ベースのままのタスクが存在するのであれば、それを特定しデジタル化します。たとえば、提案書や契約書は手書き (ハンコ) ではなくデジタル署名を利用して作成。議事録や会議のメモはデジタルデータとして取り込みます。また、人事ファイルをデジタルデータとして管理し、勤怠記録や休暇申請を電子化します。顧客への連絡手段として郵送も必要、という場合はインターネットを介した郵便発送サービスを活用しましょう。

構造化・標準化されたデータ入力。処理するデータのフォーマットが統一されていれば、RPA ボットの開発が簡単になります。たとえば、一般的なカスタマーサービスのリクエストを自動で処理する場合、記入欄を標準化しておき、さらに記入時にリクエストのジャンルの選択肢を用意しておけば、顧客のニーズに応じた Web フォームを提示できます。そうすることで、体系化されていない eメールでのコミュニケーションよりも、体系化されたデータ入力を促すことができます。RPA ボットによる処理の簡便化かつ迅速化が可能になります。

プロセスのトリガーを定義。RPA のプロセスを自律的に開始するための明確なデジタルトリガーが必要です。たとえば、商品の出荷が完了したことを知らせる eメールが顧客に送信されると、それによって請求処理が自動的に開始されます。

システムの安定性。当面、変更の予定がないシステムのプロセスを自動化すべきでしょう。プロセスに新しいアプリケーションを導入したり、既存ユーザーインタフェースを変更したりすることを避けることが賢明です。RPA ボットの調整や再開発、改造が必要になります。

プロセスの安定性。プロセスがすでに最適化され固定されていれば、フローの変更による RPA ボットの調整や改造をしなければならないような状況に直面することはないでしょう。そのためにも事前にプロセスを最適化することは不可欠です。

ルールベースのプロセス: プロセスは明確な論理ルールと決定木分析 (X なら Y) に従っていなくてはなりません。それでも明確なルールが定義できない処理工程がいくつか残ることがあり、その場合は人間の判断が必要になります。ボットはこのようなタスクを「人間の仕事」として社員の手作業に委託できます。その後、この「アテンディットボット」(人の指示を受けて実行されるボット) はそのプロセスを自動化します。

バリエーションが少なく標準的なプロセス: プロセスのバリエーションが増えるごとに、ボット開発の手間も増えていきます。なるべく特殊なケースの割合が少ない標準的なプロセスを選んで自動化するか、「ハッピーパス」(定型化できる作業) だけを自動化して、プロセスの例外は手作業に任せましょう。

RPA の評価基準 II:収益性

手作業が多い:手作業の多いタスクから、RPA を採用することを検討するべきでしょう。たとえば複数のシステムからデータを集めてレポートを作成する場合、1 回のクリックでこのタスクが完了するならば、自動化による省力化はかなり小さいと言わざるを得ません。

反復業務である:収益性を示すもう 1 つの指標に「頻度」と「反復性」が挙げられます。毎日または毎週、繰り返し実行しなければならないルーティンワークがあれば、RPA の実装をぜひとも検討すべきです。

プロセスのボリューム:頻繁が高くなくても、定期的に専任部署で大量の作業が必要となるプロセスもあります。例えば、毎月の給与計算 (人事部)、毎年の決算 (経理部)、あるいは年末年始の大量注文 (調達部や経理部) などがあります。RPA によって、一時的に集中したワークロードを軽減できます。

プロセスコストと RPA コストの比較:タスクの処理時間と社員の給与に基づいて実際のプロセスコストを割り出し、節減額を算出します。その節減額とRPA のコスト (ボット開発などのイニシャルコストと保守やライセンス料などのランニングコストの合計)と比較しましょう。RPA のイニシャルコストとランニングコストを上回るような節減効果が見込めるのであれば、自動化する価値は十分にあると言えます。

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